電車男というコンテンツをご存知だろうか。
イキることもできず、女とまともに話すことすらできないような重度のキモオタの非モテ男が、電車の中での人助けがきっかけとなり自身の人生を大きく変えていく話だ。
先日僕は、この電車男体験をした。要は、痴漢を目の当たりにして、いても立ってもいられなくなったって話だ。
ひさしぶりに思い出した電車男と、痴漢事件にについて語ろうと思う。
まず、痴漢に対して知見を広げよう。
主に地方公共団体ごとの迷惑防止条例や、
刑法第176条の強制わいせつ罪が適用される。
実務上は迷惑防止条例の
「正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、
又は人に不安を覚えさせるような行為として、
公共の場所又は公共の乗物において、
衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」
に対する刑事罰が適応される場合が多い。
引用: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%97%B4%E6%BC%A2
なるほど。軽くまとめるとこんなかんじ。
普通に考えて、当たり前に守ることができそうな規則だ。
だが決まりごとというものは、皆が気持ちよく過ごすために作られるもの。つまりルールを守れない人を罰し、律するために用いられるとも考えられる。
まるでルールを守れない人が出てくることを、想定されているかのような言い回しだ。残念ながら、一定の割合でルールを守ることができない人は生まれてきてしまうのである。これは痴漢の統計を追えば一目瞭然だ。
故に、必要なルールを作っていく必要があるのだ。社会では、自分ひとりだけが生きているわけではない。
登場人物は、女とおっさん僕だ。
全員同じ電車に乗っていて、僕は垂れている吊革に手をかけていた。僕の目の前にいた、明らかに口が臭そうなおっさんは、目の動きが落ち着いていない。
おっさんの目線の先には女。いかにもか弱そうな顔をしていた。
視線を女は感じたのか、唇を噛み締めて臨戦態勢に入ったように見えた。反応を伺ったおっさんは「しめしめ」と思ったのだろうか。明らかに臭そうな唇を、舌でひと舐めした。
見るに堪えられない光景と恐怖に、彼女は僕の方に視線を逸らした。
今でこそこれは痴漢だったと断言できるが、当時は確証を得られるものがなかった。
僕は見知らぬ女の心情を筒抜けにする超能力は持ち合わせていない。ましてや、女の性癖が痴漢されることであれば、もはや迷惑防止条例が機能するはずない。
だからこそ痴漢か否かの判断を下すことは難しかった。
ただ僕は、女の目線が合ったときに感じた。彼女の、言葉に出来ない心の中の慟哭を。言葉ではなく、目で助けを求めていたのである。
これに気付くことができた理由は、僕が日頃から女と会話するときに目を見て話すことを意識しているからだ。だからこそ、彼女の瞳に刻まれたSOSを読み解くことができた。
正直、目を閉じれば億千の星じゃないが、僕は無関係の人でいられた。助けたからと言ってなにかインセンティブがあるわけでもない。そのおっさんの標的に自分が変更されて、無駄に時間を消費する可能性もあった。
ただ、非モテのおっさんが蹂躙しているさまに腹がたった。自分がなりたくないおっさんを体現しているのを黙ってみていられるほど、僕は大人じゃない。
その時僕を後押してくれたのは、元キモオタで非モテのヒーローこと電車男だった。
彼は、筋肉もなければ、女と寝る経験もない恋愛市場的には価値が低い男だと外見からは評価される。自分のだらしなさが身体に纏わりついている人間は女から評価されないことは自明だ。
ではなぜ彼はMs.エルメスの視界に忍び込むことができたのか。
それは並々ならぬ勇気を持っていたからだ。それはまさしく、人の勇気には(少なくとも恋愛市場的には)価値があることの証明だった。
その勇気に心震わせて、電車男に眠る本当の雄を垣間見たのだろう。次第に彼女は電車男に惹かれていくストーリーが、歯がゆくも美しかった。
その後僕は彼女に感謝されたが、彼女がエルメス化することはなかった。女に困っているわけではないし、僕が憤って一人でやったことだから満足していた。
今回の出来事で学んだことは、カネでは買えない勇気があれば人を助けることができるということだ。
女修行のときに培ったこのスキルが、人の役に立って本当に感動した。